2026.09.11
講演会場に一夜限りの売り場をつくる。名物書店オーナーに学ぶ、出店サポートインターン
書店には古今東西あらゆる書籍が並べられています。しかしその一冊一冊は、もれなく誰かが選んで置いたもの。本だけでなく、普段何気なく手に取っている商品の向こう側には、売り場をつくった人の意図が必ずあります。
では、その売り場を店舗ではない場所に設けるとしたら、何が必要になるのでしょうか。今回のインターンの舞台は、大阪・淀屋橋で開かれたトークイベントの会場です。登壇する書店店主のサポート役として、2人の専門学校生が販売ブースの設置・運営に取り組みました。
大人の学びの場「ナカノシマ大学」に出張書店をつくる

「ナカノシマ大学」は、大阪・中之島を拠点に、定期的に開かれている市民講座です。「大阪の深掘りはクセになる」という趣旨に共感する人なら、年齢・性別・国籍を問わず誰でも受講可能。ゲスト講師を招き、中之島エリアを中心とした大阪の歴史やカルチャーを紹介しています。2009年に開講し、出版社兼編集プロダクションの「株式会社140B」が事務局を務めます。
https://nakanoshima-daigaku.net/
2026年7月回のテーマは「旅と本と大阪ばなし 時々お酒」で、講師は「スタンダードブックストア」店主の中川和彦さん。かつては心斎橋や天王寺に構えた自店に著者を招き、1,000回以上のトークイベントを開催してきました。実店舗を閉じてから3年、久しぶりに1人で語る機会とあって、会場には約70人が詰め掛けました。

会場の芝川ビルは1927年竣工。当時の趣を残す豪華な装飾が散りばめられた、大阪を代表するレトロビルのひとつです。
この日の講座では、もうひとつのお楽しみとして、中川さんが選んだ本とドリンクの販売コーナーが展開されました。イベント出店には慣れているものの、講座準備と主催者との打ち合わせがあるため、1人での対応は困難と判断。開場前の売り場設営や接客を担うインターンを募りました。
募集した人
スタンダードブックストア店主 中川和彦さん

東大阪市出身。難波の百貨店などで書店を営んでいた父親の死をきっかけに、「株式会社鉢の木」代表取締役に就任した。2006年、西心斎橋にスタンダードブックストアを開業。本と雑貨とカフェを融合させた店づくりで知られ、会計前の本をカフェに持ち込めるスタイルも話題に。現在は新たな拠点を探しながら、心斎橋パルコでのコーナー展開や、各地での「古本屋台」の出店などを続けている。https://standardbook.thebase.in/
「最近は屋台スタイルで出店することが多いのですが、今回はトークもあり手一杯。少しでも本や書店に興味のある若者に手伝ってもらえたら、と思い1日限りのインターンとして募集しました」
インターン生
大阪デザイナー・アカデミー グラフィックデザイン学科
グラフィックデザインコース 2年 佐名瑞己さん

デザインを学ぶ傍ら、ZINEの制作に取り組む。書店では、表紙のビジュアルに引き寄せられて手に取ることが多く、独立系書店に足を運ぶことも。卒業後は、イベント企画やデザインを手がける企業への就職を目指している。
「自分はそこまで本に詳しいほうではないので迷っていましたが、せっかくならやってみようと応募しました。不安もありましたが、面白そうだなという気持ちのほうが勝りました」
大阪デザイナー・アカデミー グラフィックデザイン学科
グラフィックアートコース 2年 鬼塚蒼大さん

デザインやアートを通じた自己表現を専攻。入学後は各地のイベントに足を運ぶようになり、自身も企画やZINE制作、出展などに挑戦。書店では、表紙のデザインや写真集を眺めて過ごす。卒業後も制作活動やイベント運営を継続する予定。
「いろんなイベントに行くたびに刺激をもらってきたので、今回も何か持ち帰れるものがあるんじゃないかと思って。書店さんに関わるのは初めてですが、面白そうだと思い参加しました」
インターンレポート

日照りがようやく落ち着いてきた夕方に、芝川ビル前で中川さんと学生たちが合流。中川さんは「お客さんとしゃべったりして、とにかく楽しんでやってくれたらええから!」と声をかけました。
開場が迫るホールに、手早く売り場を設置

この日のラインアップは、今年復刊された駒澤敏器さんの『語るに足る、ささやかな人生』(風鯨社)をはじめとする書籍や、富田林市の『万里春酒造』によるクラフトビールなど。客席があるホールの一角に長机を置き、これらを並べていきます。

会場に運び込んだ荷物をほどくと、ジャンルの異なる多彩な商品が現れます。これらをフラットに扱うスタンダードブックストアのスタイルに、2人は少し戸惑いながらも興味津々な様子で作業を進めていました。

本とドリンクの位置関係、お客さんへの声のかけ方、ドリンクの出し方などについて説明する中川さんに、佐名さんと鬼塚さんは、真剣な表情で聞きながらメモを取ります。

本のある空間のおおらかさを長年語り続けてきた中川さん。この講座に寄せたメッセージでも「本はあらゆるハードルを下げるツール」と綴っていました。本とお酒が同じ台の上に並ぶ売り場は、その考えを最小単位で具現化したものともいえます。
最初のピークは開講前

開場時刻の17時半を回ると“受講生”が続々と来場します。この日は最高気温が35度を超える猛暑日だったこともあり、開講前からドリンクを中心に注文が相次ぎました。

インターン生の2人は、次々に入る注文に対して、手早く商品を作って提供。初めこそ表情や動きが固かったものの、少しずつ慣れてくると、ドリンクの説明を交えながらお客さんに勧める様子も見られました。講義が始まると、トークに耳を傾けながら、次のピークに備えて売り場を整理していました。
終演後も読書家たちの熱気で満ちた会場

質疑応答も盛り上がり、約2時間にわたる講義が終了。その後は中川さんも売り場に立ち、来場者と歓談したり、並べた書籍の解説をしたりしました。その間も2人は商品提供に奮起。「お疲れさま」と声をかけてくれる人もいたようです。
書籍、ドリンクとも売れ行きは好調で、撤収時にはかなり減った在庫を元のバッグや箱に手際良く戻し、この日のインターン業務は終了となりました。
インターンを終えて
最後に、インターンを募集した中川さんと、参加した佐名さん、鬼塚さんにそれぞれ感想を聞きました。
中川さん「若い2人にとって、本や商売への興味が深まるきっかけになれば」

「インターン生がきてくれたことで、講義やお客さんとの話に集中できて助かりました。1人でやっていると、屋台だけの時でも大変だから。受講してくれた人は結構年齢層が高かったから、2人が加わってくれたことで、会場の雰囲気もちょっとフレッシュになったのも、よかったですね。彼らにとって、本や本屋という存在への興味、理解が深まるきっかけになったならうれしいです。ホンマにありがとう!」
佐名さん「対話しながら本を勧める姿が印象的でした」

「接客のバイト経験はありましたが、扱う商品がどれも初めてのものなので不安がありました。それでも少しずつ、お客さんに自分の言葉で説明できてホッとしています。それから、中川さんが本を勧めている姿が印象に残っています。八百屋さんが『これ、ええよ!』って話してる感じというか……自分がお客さんの立場だったら楽しく買い物できるだろうな、と思いました」
鬼塚さん「人生を楽しめる大人になりたいと思った」

「率直に、すごく楽しかったです。受講されている方々が、普段あまり接点のない人たちだったので新鮮で、いつもと違う頭の使い方をした感じがします。本屋さんが外に出ていって売る、というスタイルも新発見でした。中川さんの話を聞いて、人生をすごく楽しんでいそうで『ああいう大人になりたいな』と思いました。またイベントなどで出店された際は、うかがおうと思います」
「売る」という行為は、レジに立つことだけを指すのではありません。何を仕入れ、どの棚に置き、その周りに何を並べるのか——その積み重ねが、本を含むあらゆる商品の買い物体験をつくっています。40年にわたって本のある場所をつくり続けてきた中川さんの隣で2人の学生が触れたのは、そうした場づくりの実践知でした。
「イベンターン」はこれからも、クリエイターと学生の双方に発見がある、有意義な短期インターンを実施・紹介していきます!